先生、このガムあげる!

 速読脳の開発は、指導する側にとってもそう容易なことではない。受講生の訓練状況に即してアドバイスを入れなければならないだけでなく、本人の意欲を保たなければならないからだ。
 先日のAクラスのセミナーにお父さんと一緒に小学5年の男の子A君が参加した。お父さんは速読をやりたくて来たのだから、嬉しくて張り切っている。が、A君は何かの事情で一緒について来ることになったらしく、たいしてやる気がないことは態度からすぐわかる。
 
 じっと集中すべき訓練でも動いてばかり。他の人と違うことをやっては、私の顔色をうかがっている。そして、揚げ句の果てに訓練中なのに眠ってしまう。これでは、学校でよく叱られているのではないかと心配になるほどだ。が、講師の私は、ニコニコと、他の受講生の邪魔にならないようにガイドするだけだ。
 A君は、ここは何をしても大丈夫だなところだと悟ったらしく、次第に私の顔色をうかがうこともなくなってきた。一日目の感想を書いてもらうと、「先生は、教えるのが上手だ」とお褒めの言葉を頂戴してしまった。どうも、本人は、あくびをしようが眠ろうが、叱られることなく、のびのびできるところが気に入ったらしい。
 二日目も、一日目と同様の調子で訓練している。よく集中しているとはとても言い難い。が、あちこちに飛んで文字を順に追えなかった目も少しずつ改善され、本人は「速く読めるようになった」と自信を持ってきた。講師の目からは、速く読めたと言えるほどのレベルではないのだが、確かに、少し集中して訓練できるようにはなってきた。
 一日8時間を連続二日、小学五年生に楽であるはずはない。セミナーも終わりに近づき、この2日間の成果はどうかとA君をのぞくと、「先生、このガムあげる!おいしいよ」とガムを差し出してきた。私は嬉しくなった。この訓練においてはもちろん、彼がこれから生きていく上でもっとも大切な「意欲」を、少し喚起できたように思えたからだ。(豊文)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です